暁に消え逝く星
「私を守る者達が危険にさらされても、私一人だけ助かればよいのか?」
「そのようなことを申しているのではありません。我々の目的が、貴方様を無事にサマルウェアに連れて行くことにあると申しているのです。そのための護衛です。主命に従い、主を守るのが彼らの任務です」
イルグレンが憤慨する。
「私はファンナとお前とファレス以外と話をしたこともないんだぞ。ファンナの婚約者であるアルギルスだとて、顔と名前を知っているだけだ。私のために命を懸けている護衛なのに、ひどいではないか」
「下々の者と関わる必要はないのです、イルグレン様。御身は陛下から託された大切な方。護衛が御身を守るように、無事に西に送り届けるのが、私の務めなのです」
「その西から刺客は来たのだ。私が必要とされているとは到底思えぬ」
「いいえ。西の大公は聖皇帝とは知己の仲。この刺客は、大公が出したものではありません。大公は決して御身を粗略に扱ったりは致しません。私が保証致します」
「それでも、お前の言うことには従えん」
なおもイルグレンは言い募る。
「私は、お前がいいように操るだけの皇子ではもういたくない。これまで、私はお前言うことに従ってきた。母をなくしてから、私の世話をしてくれたのはお前だったし、お前が言うことは正しいことだと思ったし、それでいいと、自分で納得していたからだ。だが、今回は――これだけは、譲れん」
強い意志が、感じられた。
「私の命は私自身が守る。それで死ぬなら、それでよい。自分で確かめて、自分で決めたいのだ、エギル。鳥篭に篭められた鳥のように生きていくのはもう嫌だ。全ての責任は、私が引き受ける。それが私に残された、唯一の義務なのだ」