暁に消え逝く星

 エギルディウスは、奇妙な眼差しで、イルグレンを見た。
 その眼差しは、何か別の――遠い何かを見るように、痛ましげに細められていた。

 まるで、もういない誰かを見るように――

「……エギル?」
 訝しげな皇子の声に、
「――わかりました。お好きになさいませ」
 返ってきたのは、意外にもあっさりとした許容だった。
「――いいのか? 本当に」
 それまでの攻防とは打って変わって、あまりにも簡単な言葉に、イルグレンは再度問う。
「御身の義務を、どうして私如きが阻めましょう」
「――ならば、私は今後も渡り戦士達と一緒にいるぞ。馬車には戻らん」
「どうぞ御随意に。ならば私は、ファレスとリュケイネイアスと今後を詰めます。もうお休みくださいませ。そなた達、皇子を頼む」
 最後の言葉はアルライカとソイエライア、そしてアウレシアに向けられた。
 三人は礼をしてリュケイネイアスに視線を向ける。
 リュケイネイアスが頷くと三人は立ち上がり、イルグレンを待つ。
 イルグレンも、納得いかないながらも、立ち上がる。
「では、もう休む。エギル、ありがとう」
「いえ。渡り戦士達といても、常に御身を第一に行動なされませ。私達の代わりはいても、御身の代わりはおりません。その血に、代わりはないのです。それだけは、一瞬たりとも、お忘れなきよう」
「わかった」
 そう言うと、皇子は渡り戦士達と馬車を出て行った。
 気配が遠ざかっていく。


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