暁に消え逝く星

「どういうことだ?」
「ギルスは剣の腕を買われて十四歳という最年少で陛下直属の護衛隊に入ったのですが、身分は平民ですので、ファンナ殿をもらい受けるには身分が違いすぎると思ったのです」
「ファンナも、貴族ではないはずだが?」
「はい、ですが、宰相閣下が娘のように大事にしている侍女でしたので。実際に、ファンナ殿が年頃になってすぐ――三年後にまず閣下に申し込みに言ったら、けんもほろろに断られて、意気消沈して戻ってきましたから」
「余計なことを言うな!!」
 顔を赤くしてアルギルスが止める。
 だが、アルジェドがさらに言を継ぐ。
「しかも、閣下はその時、ギルスのような地位の低い貧乏人にやるくらいならファンナ殿を自分の愛妾にする、というようなことをわざとにおわせたらしく、アルギルスは勘違いしたのです」
「ファンナはエギルの愛妾だと?」
「そうです。愛妾ならば、なおのこと、エギル様が許さねばファンナ殿は手に入らない。ですが――」
 その後をカルナギウスが引き受ける。
「宰相閣下の愛妾なら、閣下より上の方の――聖皇帝陛下の許しを得ればファンナ殿を閣下から貰い受けることができると、確信したわけです」
 最後をアラムが引き受ける。
「それからはさらに腕を磨いて、毎年皇都で開かれる剣術大会で五年連続優勝し続け、見事聖皇帝陛下のお目に留まり、特別なお声がかりによって、ようやくファンナ殿との結婚の許しを得たのです」
「――なんと。物語のような話ではないか。アルギルスがそれほどの情熱家とは」
「ファンナは、そうまでしてでも得たい女性ですから」
 ばつが悪いように、それでもアルギルスは言った。
 うんうんと、イルグレンも頷く。
「そうだな。ファンナはいい女だ。私も妻に欲しいぐらいだ」
 その言葉に、周りの護衛達が全員ぎょっとする。
 アルギルスは傍目にもわかるほどに顔色が変わった。


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