暁に消え逝く星

「――というのは嘘で、話をしに。帰り際、様子が変だったからさ」
「何だ。それでわざわざ来てくれたのか」
 納得したようにイルグレンは微笑んだ。
「別に、大したことではないのだが。私は、本当に何も知らないのだなと思って」
 自嘲気味に答えるイルグレンに、アウレシアは眉根を寄せる。
「何だよ、今更」
「今日、私の護衛達と初めてまともに話をしたのだ。とても――楽しかった」
 昼間の彼らとの会話を思い出す。
「仲間というものは、あんなにも親しげで、気さくに触れ合えるものなのだな」
 心底羨ましいと思った。
 自分にはない人生。
 望んでも得られぬ人生が。
「私とは違う人生が、そこにあった。それを今日、思い知った。私には、あんなふうに歳の近い友と過ごした時間はない。血の近い弟達でさえ、他人と同じだった」
「他の兄弟達とは、仲良くなれなかったのかい?」
「弟達は、私を兄とすら思っていなかった。下賤の血をひく者は、兄とは認められなかったのだろう。まるで、その場にいないように扱われたな。自分が、誰からも見えぬ空気のような存在になったようだと思っていた。だが、彼らの人生は終わり、今は彼らこそ、空気のような存在だ。私達の人生を隔てたもの――この血の半分が、こんなにも大きく互いの人生を変えてしまうとは皮肉なものだ」
 初めて人を殺した日から、イルグレンはずっと考えている。
 自分の、これからの人生を。
 生きながらえることだけを考える人生から、生きていたいと思える人生を。
 西で、それは見つかるのか。
 西の大公国の娘婿として生きる人生を受け入れられるのか。
 別の生き方もあると、思い知ってしまった後で。
 受け入れることが当然で、疑問の余地のないはずの己の人生は、今は遠くに感じられる。



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