暁に消え逝く星
「刺客はいきなり一行を狙ったのではなく、剣の稽古に出ていた渡り戦士達を狙いました。皇子の顔を知らないらしく、確認のために渡り戦士の一人を捕らえようとしたのだと思われます。三人しかいなかったのに、恐ろしく強くて、あっという間に刺客は返り討ちに遭いました」
「――」
「襲撃の次の日は、女の代わりに護衛の若いのがさらに五人増えて、男達だけで剣の稽古をし始めました。再度の襲撃に備えているのかと思われます」
「本当に女だったのか? 女の格好をした皇子ということはないのか?」
「それはあり得ません。確かに女です。それよりも、最初の若い護衛が気になります。貴族のように美しい男です。他の奴らとは明らかに違う感じです。歳も若く見えるし、そいつだけが必ず渡り戦士達と一緒にいます」
「そいつが皇子かもしれん。ハラス、もう一度見たらわかるか?」
「俺よりレノが確実です。一番間近で見たのは奴ですから」
「よし」
男は、砂漠生まれの男衆を振り返る。
「マルグ、ここから北上したら何日で皇子の一行に追いつける?」
「一週間前にここなら、街道の高低も考えて――おそらく今はこの湿地帯に入ったはず。さらに一週間で一番深いさらに北よりの森林地帯に入るはずです。この森林地帯を南下すれば、また乾燥地帯で、そのままほぼ西に真っ直ぐ進んでサマルウェア公国内に入ることになる。俺が刺客なら、森林地帯を抜ける前に待ち伏せて狙います。ならば、渡り戦士達も警戒して進むはず。急ぐよりは、様子を探りながら進むので遅くなるとして――おそらく馬をとばせば、三、四日で森林地帯に入れます。刺客に遭わずに抜けるのは難しいかもしれませんが」
「統領。皇子達の一行と並行して、サマルウェアの国境にも探りを入れていました。かなりの数の男達が集団で国境沿いの街道を駆け抜けていくのを見られています。日数を逆算すると、森林地帯で消息が途絶えていました。潜んでいるのは間違いありません。西から東へ向かうものには全く無反応ですので、こちらが仕掛けない限りは、多分抜けるられるはずですよ。狙いは俺らと同じで皇子の一行のみでしょうから」
男は立ち上がった。
「すぐに出発だ。ハラスは馬を代えて先に出ろ。誰か二人が後始末をしてから合流しろ」
「はい!」
男衆達がすぐに散らばる。