暁に消え逝く星
男は急いで天幕に戻る。
女は眠っていたが、常にない男の乱暴な入り方に目を覚ました。
「出るぞ。後始末は任せてある。急げ」
腕を引かれて、女は走りながらついていく。
「何かあったの?」
「俺達以外に、皇子を狙っている一味がいる」
振り返って言うと、女は驚いて叫んだ。
「なんですって! 駄目よ! 皇子を殺すのはあたしよ。ここまできて、他の奴らになんて、渡さない!!」
「だからだ。もう1つのオアシスには行かずに、予定を変更してこのまま北上する。それで早ければ三日で、追いつける」
言いながら、男は女を抱え上げ、馬に乗せる。
そして、自分も鐙に足をかけ、軽々と跨った。
男衆達が次々と後に続く。
「行くぞ。遅れるな!」
男の足が馬の脇腹を蹴る。
一度身体が後ろに引かれて、それから勢いよく前進する。
土埃が舞うが、疾走の速さに追いつかない。
女の身体は怒りに震えていた。
馬の鬣を掴む手は、きつくきつく握り締められている。
男は宥めるように、腕を回して女を自分の身体に引き寄せた。
土を蹴る蹄の音にかき消されぬよう耳元で告げる。
「安心しろ。必ず、お前に皇子を生かしたまま渡してやる」
振り返らずに女が答える。
「あんたは命に懸けて果たすと言った。それを、違えないで」
逸る心を隠しもせず、馬は北を目指して、一気に駆け抜けていった。