暁に消え逝く星

 続く打ち合いで、アウレシアは皇子の剣さばきが変化したのに気づいた。
 何かに気をとられている。
 最初の必死な、焦るような動きではない。
 しかし、打ち合うことよりももっと、別の何かに気持ちを向けているのがわかる。
 眼差しは前よりも強く、こちらの動きを食い入るように見つめているのに、勝とうという気迫は、なくなっている。
 だからといって、手元が疎かになっているわけでも、手を抜いたりしているわけでもなかった。
 わけのわからぬ皇子の変化は、アウレシアを苛立たせた。
 勝負しているときに気を散らすなど、戦士のすることではない。
 これ以上は無駄だ――そう、判断した。
 上段に振りかぶった皇子の剣を受け止める。
 いつもなら流してかわすが、今回は流す途中で、勢いを止めた。
 そして、そこから懇親の力で撥ね返した。
「!!」
 違う動きに、皇子が戸惑いながらも体勢を整え、剣を構え直す。が、アウレシアのほうがもっと速かった。
 構え直した皇子に、すらりとした脚を撥ね上げる。
 狙いを過たず、アウレシアの蹴りは若き皇子の握る剣の鍔と柄の間へと入り、その剣を撥ね飛ばした。
「!?」
 剣は皇子の手を放れ、放物線を描き、それを目で追っていた皇子の喉下には、すかさずアウレシアの剣が向けられていた。
「あたしの勝ちだ」
 跳ね飛ばされた皇子の剣は誰を傷つけることもなく無事にアルライカが受け止めていた。
「信じられん…」
 驚きを隠さない声音に、アウレシアは侮蔑の眼差しを向ける。
「なんだい、あたしのやり方に文句があるってのかい。あんたが習った剣技は、所詮貴族様のたしなみだろ。御大層な礼儀や作法は貴族相手にふるまうがいい。あたしら戦士の剣技は、生き残るためにはなんでもあり、なんだ。生命がかかってる時に作法なんかあるもんかい。そんなもん律儀に守ってるから、たかが女にも勝てないのさ」
 剣を鞘へ戻し、アウレシアは踵を返す。
 立ち去りざまに、

「悔しいならまた来な。ああ、そのときは、もっと質素な服で来とくれよ。破れようが汚れようがいい服でね」

 と言い捨てたが、それを後悔するのは、やはり後のことであった。


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