暁に消え逝く星
馬車の近くでソイエライアは座り込んでいた。
皇子の身代わりを務めていたアルギルスの手当てをしている。
手当てを受けているアルギルスは、一人着ている衣服が違う。
身代わり用の、華美で、実戦にはあまり向かない裾の長い服だ。
ただ、裾は膝の近くで破れていた。
おそらく、戦うために自分で動きやすいよう切ったのだろう。
それでも、一目見て、身分の高い者とわかる。
夥しい返り血に、美しい絹は赤黒く染まっていた。
当て布からは血がわずかに滲んでいたが、それ以上の怪我はないようだ。
ソイエライアにも怪我をした様子はない。
巻き終えた包帯を縛り終えたソイエライアの穏やかな顔が、走りよってきたアルライカを見るなり剣呑なものになる。
「無事か、何人死んだ?」
「――誰も死んでない。勝手に殺すな」
それを聞いて、アルライカはほっとした。
これで、あの天然皇子も喜ぶ。
「刺客は、皆死んだのか?」
「いや――半数はやったが、残りは追い払っただけだ。数が多すぎたからな。奴らも驚いていた。もっと簡単にかたづくと思っていたらしい。さすが護衛隊長が選び抜いた精鋭だ。見かけによらず、めちゃめちゃ集団戦に強かった。鍛えたかいがあったな」
アルギルスを見ると、疲労の度合いが桁外れに違う。
皇子の身代わりということで、かなり集中して狙われたのだろう。
それでこの腕の傷ですんだのなら上出来だ。