暁に消え逝く星
第一章
西へ
とどろくように皇宮を焼き尽くす炎は、黒煙を従えて、その勢いは未だとどまることを知らないかのようにも思えた。
そして、それは死人を冥府へと送る弔いの篝火のようにも見えた。
この世界では、火は邪悪を消し去る神聖なものとして扱われている。
象徴ともいえる皇宮が炎に包まれた時、民衆は口々に呟いたという。
火の神の怒りによって、邪悪は滅び去ると――
そして、迫り来る業火を背に、女はじっと広場の中央を見据えていた。
門前にある血だまりの広場の中心には、たくさんの首のない骸が転がっていた。
全てこの国の皇族とその姻戚にあった者だ。
首はすでに皇宮の外で晒されていた。
皇帝、皇后の血に連なるものは全てが捕えられ、異例の略式裁判を経て、処刑されている。
すでに死んでいた者も集められ、晒すために首を切られた。
中にはこの業火に見舞われて判別のつかぬ無残な遺体さえある。
民衆の怒りはそれほどに凄まじかった。
神々の末裔とも呼ばれる皇族はこの日滅んだのだ。
そして、皇国もともに、滅んだのである。
おびただしい死体と鮮血に敷き詰められた広場に立ち尽くす女は、小さく呟いた。
「足りないわ。これでは足りない」
皇宮に勤める女官の装束をした女は、美しい顔を静かな怒りに染めていた。