暁に消え逝く星
少し木々が開けたところで、少し戻り、追手を迎え撃つ。
「先に行きな、早く!!」
「レシア!!」
自分の最優先事項は皇子を守ることだ。
当然のように、アウレシアは自分が逃げるなど考えなかった。
できるだけ時間を稼いで、イルグレンが無事に馬にたどり着き、仲間のところに戻らせなければ。
それだけが心を占めていた。
刺客達は今度こそ、それこそ死力を尽くしてくるだろう。
アウレシアは囲まれぬよう木々の間を抜け、器用に男達を翻弄しながら確実に斬り倒す。
が、近くでも剣がぶつかり合う音がする。
視線を向けると、逃げているはずの皇子がそこにいて、まだ刺客と斬り結んでいるではないか。
「グレン!?」
自分の背後に回り込んだ刺客を斬りざま、イルグレンと向き合っていた男の両腿の後ろを斬り払うと、怒鳴った。
「行けって言ってんだよ、この馬鹿が!!」
「お前をおいていけるか!!」
横から来た新たな刺客の脇腹を素早く突いて、イルグレンも怒鳴り返す。
自分一人が行くつもりなど、毛頭なかった。
殺すことを目的に雇われた人間達なのだ。
アウレシアは確かに強い。
だが、アルライカやソイエライアほどではない。
しかも、女だ。
そんな彼女を一人残して行くなど、できるはずがない。
ここで、最後まで戦う――それだけは譲れなかった。
次々と現れる刺客に囲まれぬよう、そしてアウレシアと離れぬよう、イルグレンは剣を揮った。
その時。
大きな影が、二人と刺客達の間に割り込んできた。
「!?」
同時に、別の黒い影達が八つ飛び出してきた。
あっという間にイルグレンとアウレシアは囲まれる。
「――!!」
だが、囲まれただけだ。
剣は抜いているが、自分達二人に向けているわけではない。
どういうことだ。
アウレシアは刺客達と向き合っている男を見た。
後姿はアルライカのように逞しい体つきの男だった。
だが、もっと細身で、しなやかさも持ち合わせていた。
背中に負った大剣があっても身軽に動く様は、その姿に馴染んでいた。
只者ではない。
アウレシアは直感した。
「手を引け」
低いけれどよく通る声がした。