暁に消え逝く星

 少し木々が開けたところで、少し戻り、追手を迎え撃つ。
「先に行きな、早く!!」
「レシア!!」
 自分の最優先事項は皇子を守ることだ。
 当然のように、アウレシアは自分が逃げるなど考えなかった。
 できるだけ時間を稼いで、イルグレンが無事に馬にたどり着き、仲間のところに戻らせなければ。
 それだけが心を占めていた。
 刺客達は今度こそ、それこそ死力を尽くしてくるだろう。
 アウレシアは囲まれぬよう木々の間を抜け、器用に男達を翻弄しながら確実に斬り倒す。
 が、近くでも剣がぶつかり合う音がする。
 視線を向けると、逃げているはずの皇子がそこにいて、まだ刺客と斬り結んでいるではないか。
「グレン!?」
 自分の背後に回り込んだ刺客を斬りざま、イルグレンと向き合っていた男の両腿の後ろを斬り払うと、怒鳴った。
「行けって言ってんだよ、この馬鹿が!!」
「お前をおいていけるか!!」
 横から来た新たな刺客の脇腹を素早く突いて、イルグレンも怒鳴り返す。
 自分一人が行くつもりなど、毛頭なかった。
 殺すことを目的に雇われた人間達なのだ。
 アウレシアは確かに強い。
 だが、アルライカやソイエライアほどではない。
 しかも、女だ。
 そんな彼女を一人残して行くなど、できるはずがない。
 ここで、最後まで戦う――それだけは譲れなかった。
 次々と現れる刺客に囲まれぬよう、そしてアウレシアと離れぬよう、イルグレンは剣を揮った。
 その時。
 大きな影が、二人と刺客達の間に割り込んできた。
「!?」
 同時に、別の黒い影達が八つ飛び出してきた。
 あっという間にイルグレンとアウレシアは囲まれる。
「――!!」
 だが、囲まれただけだ。
 剣は抜いているが、自分達二人に向けているわけではない。
 どういうことだ。
 アウレシアは刺客達と向き合っている男を見た。
 後姿はアルライカのように逞しい体つきの男だった。
 だが、もっと細身で、しなやかさも持ち合わせていた。
 背中に負った大剣があっても身軽に動く様は、その姿に馴染んでいた。
 只者ではない。
 アウレシアは直感した。

「手を引け」

 低いけれどよく通る声がした。


< 205 / 251 >

この作品をシェア

pagetop