暁に消え逝く星
そして、問うた女もその答えをすでに彼の口からは求めてはいないようだった。
女は衣嚢から短刀を取り出し、鞘から抜いた。
「あんたで最後よ、皇子様。皇宮は燃え落ち、皇国はすでにない。皇族も全て晒し首になった。あんたが死ねば、あたしの復讐はやっと終わる」
一歩、また一歩、女が近づく。
「――」
女の持つ短刀の刃先は震えていた。
頼りなげなその様子から、女は剣を持ったことすらないのだと気づいた。
人を殺したことのない、人殺しの道具さえ持ったことのないだろう華奢な女だった。
それでも、ここまで来たのだ。
たった一人の家族のために。
取り戻すことの叶わぬ愛しい者のために。
自分とその血族が犯した愚かで残酷な罪故に。
「――」
イルグレンは、女に対する憐憫で、胸が詰まった。
なんという哀しみ。
わかる。
失いたくないと願った命を、イルグレンはすでに知っている。
愛しくて、傍に居たくて、この時が永遠に続けばいいと心から希《こいねが》う気持ちを知っている。
それなのに、そんな気持ちを、ささやかな願いを、為す術もなく踏み躙られ、それでも受け入れねばならなかったのだ。
なぜ生きているの?
その答えの意味が、今、わかったような気がした。
「――あなたの手を汚してはならない!!」
鋭い声が、女の動きを止めた。
青ざめて儚げな女を安心させるように微笑んだ。
「自分の罪は、自分で贖う――だから、あなたがその手をこの穢れた血で汚すことはない」
女が動くより先に、イルグレンは懐に隠し持っていた短刀を抜いた。
逆手に持ち替える。
「グレン!?」
アウレシアの叫びが聞こえた。
そして目を閉じて、手を引き寄せた。