暁に消え逝く星
「――」
衝撃は、一瞬だった。
苦痛は、永劫かとも思えた。
腹部に刺さる短刀を、イルグレンはじっと見据えていた。
作法では、刺した刃をさらに横に引かなければならなかったが、無理だった。
刺したその痛みだけで、もう耐えられなかった。
だから、せめて抜いた。
咄嗟に押さえた腹部から血が流れていく。
それと同時に、急激に体が冷えていくような気がした。
ああ、自分は今死ぬのだ、と悟った。
その前に、言わなければならないことがある。
「――すまなかった」
前のめりになりかける体を血まみれになった手でとっさに支えながら、イルグレンは頭を垂れた。
「何馬鹿なこと言ってんだ!?」
アウレシアの声がやけに遠くに聞こえる。
大きな声のはずなのに、それを感じられない。
痛みと腹部から末端へ広がっていく寒さに、意識が奪われていこうとしている。
「全ての罪が、グレンにあるって言うのかよ!? そんな馬鹿な話があってたまるか、いくら皇族ったって、そいつは貴族でもない平民の側室腹で、何の権力も持たない、見捨てられたも同然の皇子だったんだぞ」
「違うっ」
対するように、自分の声はやけに自分に響いた。
実際は、声は掠れていたのではないか。
それなのに、自分の鼓膜には、まるで大声でわめいているように感じられる。
これ以上、声を出したくなかった。
声の震えは今は何より体に痛みとして響く。
声を出すには、腹部に力を入れなければならなかったのだ。
そんなことにも、初めて気づいた。
痛みに苛まれる自分と、こんなときによけいな感慨を抱く自分と、心が二つに分かれていくような感覚。
だが、言わなければならないことがあるのだ。
それまで、どんなに苦しくとも死ぬことも許されない。
レシア、黙ってくれ。
話させてくれ。
この女神のように自分を断罪する人に、懺悔させてくれ。
でないと、この痛みに耐えられない。