暁に消え逝く星
心からの謝罪が欲しかったのではない。
ひどい人間であってほしかった。
殺すことに何の躊躇いも抱かない、傲慢で、惨めで、薄汚い人間でいてもらいたかったのだ。
弟を死に追いやった皇族ならば、そのような人間でなくてはならないのだ。
何もできなかった自分を責めるのに疲れていた。
理由が欲しかった。
この痛みから逃れるために。
無力な自分を――たった一人の弟さえ救えずに、自分もまた餓えることなく暮らしていた愚かさをすり替えるための正統な証が。
愛していたのに。
苦しんでいる弟のことを忘れていた辛さ。
愛していたのに。
失ってからしか気づけないこの愚かさ。
どうして、あの子の傍を離れたのだろう。
どうして――たった二年なんて、思ったんだろう。
お金さえあれば幸せに暮らせるなんて、勘違いしたんだろう。
貧しくても、傍にいられれば、あんなに無残に死なせなかった。
自分に残された、たった一人の家族だった。
そんな弟さえ、守れなかった。
それなのに、どうして自分だけが今も生きているのだ。
今はもう、どうしようもない後悔だけが女を苛む。
故国を滅ぼし、更に多くの血を流した女。
歴史は後に彼女をこう語るだろうか。
だが、彼女がなぜ国を滅ぼしたか、どんな思いで多くの血を流したかを、後世の人間は知ることはないだろう。
人は常に、行為の結果だけを見る。
そこに到るまでの慟哭を、決して見ることはないのだから。
そして、すでに女には、皇子を憎み続けるだけの理由がなかった。
手に持っていた短刀が、静かにその手から落ちた。
「もういい……もういいわ……」
女は数歩、後ずさった。
そして、踵を返し、その場を去った。