暁に消え逝く星
「剣の稽古ができなくて残念だ」
「あったり前だろ? 立ってないで座ろうよ。ほら」
腕を引かれて思わず掴み返す。
「グレン?」
「いや、お前に話があって来たのだ。出来れば二人だけで」
一瞬戸惑ったような顔をしたアウレシアだが、
「じゃあ、散歩しながら聞くよ。あそこの木の陰まで」
そうしてゆっくり歩き始めた。
久しぶりに並んで歩く感覚が、心地よかった。
まるでずっと以前からこうしてきたように、自然なことのように思えた。
「歩けるようになってホントによかった。死ぬかと思って泣くかと思った」
「なんだ、それは。結局泣いてはくれなかったのか」
「泣くもんかよ。自分から死のうとする奴のためになんか」
舌を出すアウレシアに、イルグレンは苦笑した。
「死んでもいいと思ったのだ、あの時は」
「グレン――」
「本当だ。あの時は、そのために生きてきたのではないのかとさえ思えた。彼女はまるで断罪の女神の化身のようだった。私の罪を、これで償えると思ったのだ」
「グレン、怒るぞ」
「だが、慌てて駆け寄ってきて手当てをしてくれたお前を見た時は、死にたくなかった。
生きていることは素晴らしい。生きていられて、本当によかった。
それも、確かなのだ」
にっこり笑って、イルグレンはアウレシアを見つめた。
邪気のないその笑顔に、一瞬見とれ、我に返って大きく息をつく。
「ほんっとに皇子様だなあ。こんな仕事は一生に一回ありゃ十分だな」
あきらめたように笑い返すアウレシアに、今度はイルグレンが我に返る。