暁に消え逝く星

 しばらく待ったが、一向にエギルディウスが戻る気配はない。
 待ちくたびれたイルグレンは徐に立ち上がった。
「皇子様、どちらへ」
「庭を見てくる。じっとしているのは飽きた」
「お待ちください。供も連れずにお一人など」
「旅の間は供など連れていなかったではないか」
「ここは公宮でございます! 御身に何かございましたら」
「ファンナ、命令だ。供はいらぬ。すぐ戻る故後は追うな」
「皇子様!」
 庭の小道を抜けて、イルグレンはさらに中庭へと進んだ。皇宮とは趣は違うが、白亜の円柱を貴重とした異国情緒溢れる庭園を気配を殺しつつ探索する。
 人の気配は全くない。
 イルグレンは、まるで昔のように故国の離宮の庭に一人でいるように感じた。
 誰かの傍にいて空気のように扱われるよりは一人のほうがずっとましで、よくそうしていた。
 昔と同じ。
 前と同じだ。
 それなのに。
「――」
 不意に、足が止まる。
 一人になっただけなのに、安堵と寂寥感がない交ぜで、どうしていいのかわからない。
 今、ここにアウレシアがいてくれたら、この淋しさは消えてくれるのだろうか。
 あの時見た、夜明けの紫とは程遠い空を見上げて、その鮮やかな青が目にしみて、イルグレンは目を閉じた。
 そうして、進むことも戻ることもできず立ち尽くしていた。


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