暁に消え逝く星
自分を見つけた公女は、無邪気な笑顔で近づいてきた。
「道中ご苦労様でした。お疲れになったでしょう? 離宮ではよくお休みになれまして?」
話しかけられて、違和感が募るものの、イルグレンは丁寧に受け答えた。
「ええ、とても。御国の素晴らしい庭園に誘われて、このようなところまで来てしまいました。公女殿下こそ、御機嫌いかがですか」
「今朝は早くに目が覚めましたの。昨日には皇子様がお着きになったと聞きましたのに、お父様はお疲れだろうからご挨拶は控えるようにと」
今年で十六になる公女と聞いてはいたが、どうもそれよりは幼く見える。
あどけない笑顔のせいだろうか。
イルグレンの内心の困惑をよそに、公女はイルグレンの腕に自分の腕を絡めた。
「ようやくお会いできたのですもの。少しお話してもよろしいかしら」
「え、ええ」
「では、こちらに、素敵な四阿《あずまや》がありますの」
「ひ、姫様、そのように急かされては……」
お付きの侍女達が困惑して声をかける。
しかし、構わずにぐいぐいとイルグレンの腕をひいてそちらに向かう公女は、やはり幼い子供のように思えた。
「殿下、そのように急いでは転びますよ」
「だって、早くお見せしたいんですもの。とても綺麗なんですのよ」
イルグレンは妹が兄に我侭をいうならこのような感じなのかと思った。
自分の異母妹達には、そのように声をかけられることも、甘えられることもなかったが。