暁に消え逝く星

「ね、素敵でしょう? 私、ここからの眺めが一番好きなの」
 確かに、公女が連れてきた庭園の中の四阿は素晴らしかった。
 色とりどりの花々が咲き乱れ、庭を巡る水路が小さな川のように流れている。
 すでに季節は夏だというのに、暑さにも負けずに極彩の花が咲き乱れる様は見ごたえのあるものだった。
 あの北の果樹園を思い出し、だが、すぐに心の内から追い払う。
 思い出して、どうする。
 決してもう戻れないのに。
 目の前の無邪気な少女とあの思い出は、何もかもが違っていた。
 公女のおしゃべりはとどまるところを知らず、イルグレンは内心驚いてもいた。
 よくもまあ話題が尽きないものだ。
 しかも、語られる内容は他愛もない日常のこと、家族のこと、お付きの侍女のこと、よくぞそこまでつぶさに観察しているものだと感心半分、呆れ半分で聞いていた。
 侍女達は公女の命令どおり四阿から離れて見守っている。
 婚約しているとはいえ、未だ公然の秘密である皇子と二人きりにするなど、許されたことではない。
 どうしたものかとはらはらしながらこちらの様子を窺っている。
 だが、そんなことには全くお構いなしで、おしゃべりを続ける公女は、話しつかれたのか、ようやく一息ついた。
「公女殿下」
「はい?」
「私の国のことは、ご存知ですか?」
 一瞬、きょとんとした公女は、それから、思い至ったのか、にっこりと笑った。


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