暁に消え逝く星
世間知らずで天然の皇子様。
それだけ。
それだけだったはずだ。
「――」
だが、それだけではないものを、イルグレンは持っていた。
冗談ですませられたことも、彼には通じず、いつだって呆れるほど真摯に問うて、答えてきた。
なぜだろう。
いつも、守ってやらねばならないような気がしてた。
そばにいて、からかうような言葉を交わし、いろんなことを教え、背中をあずけてもいいような気さえしてた。
最初から、わかっていたはずだったのに。
体を重ねる前から、必ず来る別れを知っていたのに。
最後に別れを告げたあの言葉でさえ、全て真実しかなかったのに。
「泣くほど好きだったってことなのかよ」
馬を降りて、座り込むと少し冷えた風が頬に心地よい。
しばらくは、きっと夜明けを見るたびに彼を思い出すだろう。
暁に消えていく星を見てほんの少し涙を流すだろう。
それでいいのかもしれない。
無理に気持ちを誤魔化すことはないのだ。
悲しいときは、素直に認めて、泣きたかったら泣けばいい。
そうして生きていくのだ。
悲しみもいつか薄れるだろう。
そして、思い出になるだろう。
今はまだ、無理なのはわかっているが。
新たな涙は、星のように夜明けの紫に消えていった。