暁に消え逝く星
涙が乾くには十分な時が過ぎた。
気持ちも落ち着き、何事もなかったかのようにアウレシアは立ち上がった。
その時。
遠くから蹄の音が聞こえる。
朝日に向かって駆けてくるその姿を、なぜかアウレシアは確信していた。
「グレン――」
近づいてくるその姿は、身を飾る宝石も宝冠も宝剣も美しい着物も、高貴な身分を思わせるようなものは何も身につけていなかった。
リュケイネイアスら戦士の着る、簡素な衣服に、細身の剣、使い古した革のフードのみ。
アウレシアの前で手馴れたように馬を止めるその姿だけを見ると、とても皇子には見えない。
「――なんでここに」
「リュケイネイアスに聞いてきた」
かすかに息を切らせながらも、一息に言い切った元皇子は、軽やかに馬から降りた。
そのまま、大股でアウレシアのもとへ向かう。
「違う、あんた、公宮に行ったはずだろ。なんでそんなカッコでここにいるんだ!?」
「ああ――捨ててきたからだ、全部」
こともなげに、イルグレンは告げた。
「もう何も要らないのだ。美しい着物も、身を飾る宝石も、豪奢な宮も、皇子という身分も、たくさんの家来も、美しい花嫁も」
そっと、イルグレンはアウレシアの頬に触れる。
「お前以外の、何も」
唖然としたアウレシアに構わず、イルグレンは言を継ぐ。
「お前は、私のために何も捨てない女だからな。だから、私が捨ててきた。リュケイネイアスにも許可をもらったぞ。お前も言ったろう? 私には皇子稼業をやめても食べていけるだけの腕があると。自惚れているわけではないが、お前の傍にいるには渡り戦士が一番都合が良いだろうと思ったので」
笑って自分を見下ろす男を、アウレシアは怒りとも悲しみともつかぬ表情で見つめた。