暁に消え逝く星

 なんという愚かな男だろう。

 自分のような女の言葉を真に受けて、本当に何もかもを捨ててきたというのか。
「馬鹿だよ、あんた。後悔する」
 言った自分が、後悔したくなってきた。
 この天然な皇子様の代わりに。
「あんた、全然わかってないよ。捨ててきたものが、どんなに大事か。
 全部捨ててきたんだよ? 何不自由ない生活、これから先の幸せ、全部捨ててきたんだよ?
 悪いことは言わない。今ならまだ間に合う。まだ――戻れる」
 アウレシアの言わんとしていることは、イルグレンにもわかっていた。
 彼だとて、一時の感情でここまで来たわけではないのだ。
 心を決めてからでさえ、何度も考えた。
 何度も悩んだ。
 不安も、淋しさも、ある。
 もうどこにも戻れぬのだという孤独も、完全に振り捨てられるはずはなかった。
「ああ。後悔するかもしれない。だが――」
 真っすぐに見据える瞳。
 夜明けの紫だ。

「お前を失ったことを後悔し続けて生きていくよりは、ずっといいはずだ」

 強い眼差し。
 確かな言葉。
 アウレシアは泣きたいような気分になった。



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