暁に消え逝く星

 一足先に焚き火の前で夕飯の支度に動き出していた男衆は、自分達の統領が女を抱き上げてこちらに来るのに気がついた。
「統領?」
「気を失った」
「ここまで耐えたんですかい。ものすごい姐さんだ。砂漠越えどころか、馬に乗ることさえ初めてだってのに」
 男達はもっと早く音をあげると思っていた。
 貴族のお姫様のように華奢な女が、この道行きについて来れるはずはないだろうと。
 だが、女は文句一つ言わなかった。
 必要最小限のこと以外は何一つ言わず、ただ黙って馬にしがみつき、ついてきた。
 その執念たるや、男衆でも脱帽だ。
「天幕へどうぞ、統領。飯ができたら持って行きますかい?」
「頼む」
 用意された天幕に女を運ぶと、毛布の上に横たえる。
 帯をゆるめ、胸元を開くと、かすかに女は身じろいだ。
 しかし、起きる気配はなかった。
 皮袋の栓をとり、水を口に含むと、男は身を屈め、女のわずかに開いた口を塞ぎ、口移しに水を流し込む。
 弱々しく嚥下するのを確かめてから、もう一度同じことを繰り返す。
「――」
 男は女の目が辛そうに開くのをじっと見ていた。
「倒れたの…?」
「ああ」
「そう…」
 青ざめたその顔は、痛ましいほどの美しさを湛《たた》えていた。
 そして、絶望も。
「やめるか」
 男の問いに、女は弱々しくも頭を振る。
「――それなら、寝ておけ。明日も早い」
 そう言うしか、なかった。


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