暁に消え逝く星
女の傍らに立つ、背の高い屈強な男が低い声で問う。
「では、どうする?」
砂漠の盗賊のように長い外套が風にあおられる。
いまだ燃え上がる皇宮の熱風がもうここまで届いているのだ。
「俺はお前に従う。そういう約束だったからな」
馬の蹄の音がこちらに近づいてくる。
一頭ではない。
複数の蹄だ。
「どうすればいい? どうしたい?」
蹄の音にかき消される前に、女ははきすてるように言った。
「――皇子の首を。それで最後よ」
「わかった」
大地を揺るがす大勢の蹄の音は、男の背後で止まった。
十数人の男達が馬から降り、男の指示を待っている。
やはり全員が砂漠に暮らす者のような格好だ。
長い外套に、革の手甲と脚絆、日除けとなる布を頭に巻き付けて背中に垂らし、ほとんどの者が髪の色を定かにはさせない。
「俺の馬を」
男の声に、すぐに乗り手のない馬の手綱を掴んだ男が前に出る。
「統領。どちらへ」
「準備をしろ。砂漠越えだ」
男は女を抱き上げ、馬に乗せると、自らもその上に跨がった。
他の男達もすぐにそれに従う。
来た時と同じように、皇宮の大理石の石畳を割るかのような勢いで馬は駆け去っていく。
そうして、馬は西へ向かった。