暁に消え逝く星
一瞬、言われた言葉の意味が理解できなかった。
「は?」
アウレシアは負けたと言った。
そう聞こえた。
視線をしばしさまよわせ、それからもう一度アウレシアのほうへ向けると、確かに、体勢的には、イルグレンはアウレシアの動きを封じていた。
彼女の剣は弾き飛ばされ、空手だ。
そして、自分から負けを認めた。
「勝っ――た、のか…?」
信じられないというように、イルグレンはまだアウレシアをじっと見下ろしていた。
まぐれ当たりの勝利だ。
にわかには信じがたい。
だが、アウレシアは素直に負けを認め、両手を軽くあげて、降参の意を示す。
「あーあ、負けたよ。油断したもんだ。たった二週間で皇子様に負けちまうとは」
剣を抜いて立ち上がるイルグレンとともに、アウレシアも起き上がる。
届く範囲で背中と尻の汚れを払い、落ちている剣を拾い上げ、鞘へと戻す。
そして、未だ勝利を信じられないイルグレンに向き直る。
「取り消す。グレン、あんたは腰抜けじゃない。立派な戦士だ」
そう言えば、己の勝利を納得し、実感するだろうとアウレシアは自分より目線の高いイルグレンの表情を見上げた。
だが、イルグレンはその言葉を聞いても、ちっとも嬉しそうな顔をしていなかった。
それどころか、不満げにアウレシアを見下ろしていた。
「取り消す言葉が違う」