暁に消え逝く星
さらに山を二つ越えた麓で、一行は今日の移動を無事終えた。
さほど高低差もない山は山道は越えることもさほど苦労はなかった。
しかし、三つ目を越えるには時間的に無理なので、今日も麓で野営の準備だ。
アウレシアとイルグレンは、今日は稽古の前に野営のための天幕を張るのを手伝った。
天幕を張るのも初めてのイルグレンは、アルライカに色々教わって、結局一人で天幕を張り、その出来栄えを喜んでいる。
初めてのことなのに教われば何でも器用にこなせるのは、聞いたことを忠実に守るからだろう。
やることなすことをいちいち喜ぶ皇子の姿に、アウレシアは呆れつつ、その素直さに感心もする。
よくもまあ、こき使われているのに楽しそうに働くものだ。
皇子様としてうまれていなければ、よほどの稼ぎ手になっただろう。
「皇子ってのは、普段、どんだけ退屈してんだか――」
リュケイネイアスを手伝いながら、アウレシアは呟いた。
「あの皇子様が俺達の常識と違うのは確かだから、皇子としても異質なんだろう。あんな皇子ばかりなら、きっと世の中もっと面白くなっているはずだろ?」
「――そうか。あいつが特別天然なだけか」
確かに、あんなのが、そうそういるわけがない。
だが、働くことが好きな皇子というのは、異質である以上、とても、生き辛いのではないだろうか。
人間には持って生まれた質がある。
合わぬ場所に生まれ、生きていくということは、とても辛い。
あの皇子も、本当は自分達のように生まれつくべきだったのではないだろうか。
「――」
話をしながらも天幕を張り終えて、アウレシアが立ち上がると、
「レシア、見ろよ。グレンの張った初めての天幕を」
ライカの声がかかった。
視線を向けると、確かに、普段とさほど変わらない天幕が、しっかりと張られている。
アルライカの隣にいるイルグレンは母親の褒め言葉を待つ子供のように、アウレシアの言葉を待っている。
その表情に、アウレシアは困ったような嬉しいような気持ちになった。
「――上出来だね。ライカよりよっぽどうまいな」
「ライカの教え方が上手なのだ。一番簡単に、無駄なく張る方法を教えてくれたので、初めての私でも簡単だった」
「そりゃそうさ。旅ってのは、何をするにも効率がいいにこしたことはないからな。憶えとけ、グレン。常に手早く、素早くだ」
「わかった。手早く、素早く、だな」
「おうよ」
そこで、アルライカがアウレシアに言う。
「グレンは飲み込みが早くて、教えがいがあるな。皇子にしとくのもったいないくらいだぜ」
それは、先ほど自分が考えていたことと同じだと、アウレシアは思った。