暁に消え逝く星
淋しい夜明け
不意に、アウレシアは目を覚ました。
天幕の中は暗く、まだ寝ても大丈夫だろうと寝返りを打つ。
だが、いつもならすぐ眠れるところを、今日はなぜか眠れなかった。
この一週間、ようやく山々を越えて、道は開けた荒野へと出た。
最後の山は登りが急だったため、馬に乗っている者達は、みな降りて、馬とともに歩かねばならなかった。
お約束通り、天然皇子は喜んで山道を馬の手綱を引いて歩いた。
長く緩い下りになって馬に乗るのを残念がっていたほどだ。
急な山登りさえも喜ぶとは、本当に、妙な皇子だと、アウレシアは顔を弛ませる。
まるで、戦士になって独り立ちした頃の自分のようだと、思った。
あの頃はまだ、リュケイネイアスともアルライカともソイエライアとも出会っていなかった。
女戦士には仕事がなく、ようやく来た仕事なら、何でもやった。
辛いなどと感じることもなかった。
どこに行っても、何をしても、楽しく、嬉しかった。
きっと、今イルグレンもそんなふうに思っているのだろう。
「――」
そんなことをつらつらと考えているうちに、眠るどころか完全に目が覚めてしまった。
大きく息をつくと起き上がる。
眠れないのに横になっていても退屈なだけだ。
じっとしているのは性に合わない。
毛布をかけたまま、アウレシアは這って天幕の入り口に寄った。
今日は夜明けまで、アルライカが火の番の筈だ。
天幕の入り口の布をわずかに引いて、外を覗く。
「――?」
焚き火は燃えていた。
こちらには背を向けている男は、焚き火の明かりで黒い影のようにしか見えないが、毛布越しのあの体つきはアルライカではない。
いつも見慣れた体躯より、もっと細身の、背筋の伸びた綺麗な影――あれは。
嫌な予感がして、アウレシアは毛布を肩にかけたまま静かに長靴を履き、天幕を出た。