暁に消え逝く星
不意に、イルグレンが空を見上げた。
「レシア、星が消えていく」
「え?」
空を見ると、東のほうがうっすらと白み始めていた。
「ああ、夜明けが近いんだ」
明けていく夜明けの紫が、星々のかすかな光に溶け込み、徐々にその姿を消していく。
それは、アウレシアにとってはすでに見慣れたなんでもない光景だった。
アウレシアがイルグレンに視線を戻すと、彼はまだ、東の空を見上げていた。
横顔は、憂いに満ちていた。。
「グレン?」
「――私は、夜明けが来るのは喜ばしいことだと思っていた」
独り言のように、呟く言葉。
まるで、誰にも聞いてもらえぬかのように、小さく、静かに響く声だった。
「だが、暗闇の中ひたすらに瞬く星が、夜明けとともに、こんなに静かに淋しく消えていかねばならないのは、哀しいことだと思う」
もう一度、アウレシアは明けていく夜空を見上げる。
イルグレンの言葉を聞いてから見る夜明けの空は、彼の言葉通りの世界に思えた。
太陽が昇るまでのこの僅かなひと時が、群青の夜空に小さくひたむきに瞬く星の光を消していくことが、こんなにも切ないものだとは――