暁に消え逝く星
「濡れたままで、どうするのだ」
「このままで帰るさ。すぐに乾くだろ」
「気持ち悪いだろうが」
その言葉に、アウレシアは感心したように呟く。
「――あんた、本当に皇子様なんだねえ」
「なんだと」
「あたしたちはさ、例えば酷い嵐でずぶぬれになりながら旅をするなんてことはしょっちゅうなんだよ。逆に、雨一滴すら降らない砂漠を、砂塗れになって渡ることもある。それに比べたら、こんな熱いぐらいの日差しに濡れたままでいることなんて、なんともないことさ」
「――衣服は、毎日変えるものではないのか」
「そんなこと、お貴族様しかしないよ。あたしらは三日くらい同じ服を来てたって気にしたりなんかしない」
「三日!?」
「汚れてもいないのに変えるほうがよっぽどおかしいだろ。だいたいあんた、同じ服を二度続けて着たことあんのかい?」
イルグレンは返事につまった。
正直に答えることがひどく悔しいような気がしていた。
「今は――着ている」
「じゃあ、それまではなかったんだ」
けらけらと、アウレシアは笑う。
「それは、そんなに悪いことなのか?」
憤慨したようにイルグレンは問うた。
「私のいた国では――皇宮では、それは当たり前のことだった。側室の母を持った末席の私でさえそうだった。私のいた世界では、それは当然のことだったんだ。私はそうした立場だったから、それを受け入れていただけだ。それを悪いと、お前等は言うのか」