暁に消え逝く星
十二人の参加者が、一通り対戦し終わると、また、イルグレンの順番が巡ってきた。
今度の相手は、背こそイルグレンよりは低いが、胸周りは二倍以上ある男であった。
合図とともに、見物人が各々の気に入った参加者を応援する。
この腕比べは、始まる前に、優勝者を当てる賭け事にもなっていたので、見物人達の応援も熱が入っていた。
アウレシアは、勿論、イルグレンに賭けていた。
これでイルグレンが勝てば、大穴狙いで一気に闘わずして儲けることができる。
そんな賭け事の対象にされているとは知らぬ天然皇子は、二人目の相手と闘っている。
さすがにアウレシアに仕込まれただけのことはある。
前よりももっと力任せに闘おうとする相手を、イルグレンは紙一重で躱す。
一人目を倒したときには、いささか緊張して動きが大きく鈍かったが、コツをつかんだのか次からは動きを最小限に止め、体力の消耗を己れではかりながら勝負を進めていた。
体格的には、他の男達と比べて劣ってはいても、技量では決して劣っていない。
初めは馬鹿にしたような残りの参加者の男達の顔が、徐々に険しくなっていったのを、アウレシアは見逃さなかった。
周囲の見物人達も、最初のひやかしはどこへやら、イルグレンの太刀さばきに驚き、華奢な天然皇子が自分より大きな男達に勝っていく様子を真剣に見始めた。
「やるじゃん、グレンの奴」
イルグレンには才能がある。
あの反射神経は天性のものだ。
加えて、相手の剣筋を読むのも速い。
今までもイルグレンの相手をしていて思っていたが、今こうして当事者としてではなく彼の動きを見ていると、優雅な剣さばきと切り返しの鋭さの妙には感心せざるを得ない。
これでもう少し訓練を積んで、体力的に問題がなくなれば、渡り戦士としても立派にやっていけるのではないだろうか。
「皇子様廃業してもやっていける職があるなんて、ずいぶん強運な奴だなあ」