暁に消え逝く星
二人は果樹の下を通りながら、奥の噴水へと向かった。
丁度よく、午後の暑い日差しを遮ってくれるため、歩きながらでも汗はすぐにひいた。
「――素晴らしい」
イルグレンが、感嘆の声をあげる。
規則正しい果樹の並びを正方形に切り取ったように、その空間だけ開けていた。
円形の池の中心にさらに円台が設けられており、その中心には水を噴出すための円柱が備え付けられている。
「えらく勢いのいい湧き水だから、噴水にするにはちょうどよかったらしい」
噴出す水が落ちる際に散らす、細かな飛沫が周囲の清涼感をさらに増す。
大きな円形の池を取り囲む縁の焼きレンガには排水のための穴が開けられており、そこから四方に水路が伸びている。
どうやら、ここが果樹園の中心らしい。
皇宮にも美しく意匠をこらした噴水がたくさんあったが、白亜に合わせた真っ白な噴水よりも、緑に囲まれたレンガの噴水のほうが、生き生きとして見えて、イルグレンには好ましかった。
「このぐらい大きいなら、一人くらい泳いでもなんともないかな」
その言葉に、イルグレンがぎょっとする。
天然皇子が噴水と周囲の景観を満喫しているというのに、女戦士は、まったく別のことを考えていたらしい。
池の縁に足をかけたアウレシアを、咄嗟にイルグレンが腕を掴んでとどめる。
「待て、この間のように服のまま水に跳び込むのはよせ。私はそこの影で休むから、服を脱いで水を浴びろ。呼ぶまでこちらには来ないから、安心していい」
「なんでだよ」
「見ている私が、気持ち悪いからだ」
真剣に引き止めるイルグレンを、アウレシアは奇妙なほど黙って見つめたが、イルグレンは気づかなかった。