暁に消え逝く星

「どうして宿に止まるの?」
 宿の中では上等の部類の部屋に連れてこられて、女は不満げに男に問うた。
「休むためだ」
「休む必要などないわ。はやく追い付かなければ、皇子を捕まえることなどできない」
「お前は疲れてなかろうが、俺の手下とクナは休む必要がある。皇子の動向は、先に南北の陸路で向かわせた奴らがすでに捕らえてある。このまま行けば、サマルウェアに入る前に余裕で追い付ける。休めるうちに休んでおけ」
 それでも納得のいかぬ女は、せめてクナの世話をするために外へ出ようとした。
 その手を、男が掴み、引く。
 勢いで、女は男の逞しい体にぶつかった。
「なんのつもり?」
「部屋から出るな。食事なら部屋に運ばせるように言ってある」
「なぜ」
「女ひでりの俺の手下や他の客には、今のお前は目の毒だ」
「ばかばかしい」
 男を押しのけようとしたが、びくともしない。
「ばかばかしいものか。酒が入ってりゃ男なんざならず者とおなじさ。道理が通じる筈もない」
「あんたもそこらのならず者と同じだと言うの?」
「俺はもともとならず者だ」
 唇の端を、笑みの形に刻む。
「お前との誓いがなければ、そこらの男どもと同じ事をするさ。美しい女が目の前にいれば、男がどういう態度に出るか、知らないほど初心でもないだろう?」


< 96 / 251 >

この作品をシェア

pagetop