暁に消え逝く星
酒場は男達でにぎわっていた。
床に敷かれた九つの絨毯の上に、直に料理と杯が置かれて、泊まりの男達がそれを囲んで談笑している。
半分は、男衆達だったが、自分達以外の旅人も多かった。
旅の疲れが酔いを増し、大きな笑い声や陽気な歌が時折飛び出す。
部屋へと通じる通路の扉を閉めると、すぐ近くに座っていた男衆達が気づいた。
「統領。どうしたんです」
「いや、飲みたい気分なんでな」
若い方の一人がさっと立ち上がり座を譲る。
そして、絨毯の間を動きまわっている給仕の元へかけていく。
男は、空いた席に座り、酒の肴として卓上に盛られた料理をぼんやり見つめた。
席を立った男が、杯と取り皿をもって戻ってきた。
座っていた残りの男の一人から酒を注いでもらい、渡す。
「すまんな」
杯を受け取ると、男は最初の一杯をまるで水のように飲み干した。
男衆達から小さく歓声があがる。
先程の若い男は嬉しそうに空の杯に、今度は自分が酒を注いだ。
「――俺に構わず、お前らも飲め。久しぶりの宿だからな」
「ありがたくやってますよ。この分じゃ、予定通りに砂漠は越えられますね」
「ああ。すまんな、俺の我侭につき合わせて」
「俺達は別に構わないんです。統領について行くと、決めていたし。統領が大切なものなら、俺達も命がけで守るんです」
男は唇の端をあげて、かすかに笑う。
「いい手下を持ったもんだ、俺は」
それを聞いて、男衆達も嬉しそうに笑った。