さよなら、いつか。②―幕末新選組伝―
池田屋事件
翼 side
「篠原、どこに行くんだ?」
こんな日に、と言いかけて取りやめる。
未来を口にするのは良くないと思って。
歴史は、簡単に曲がるから。
俺が少し口を滑らせて話した事が予言になるのなら、それは歴史を変えてしまう可能性だって十分あり得る。
「ちょっと、用を足しに。」
いつもと変わらず、美しく笑顔を振りまいて篠原は廊下を歩いていった。
少し、急いだように。
「翼、篠原くんを見なかったかしら!?」
その声に振り返る。
そこには、珍しく少し息を荒げた甲子太郎が立っていた。
「今さっき、出かけると。どうかしたんですか?」
どうやら、様子がおかしい。
篠原も篠原でさっさと何処かへ行ってしまうし。
「・・・最近、ずっと様子がおかしかったから、昨日こっそり付けたのよ。」
甲子太郎は困ったように頭を掻いた。
様子がおかしかった?
そんな素振り、俺には一度も見受けられなかった。
さっきだって、いつもと同じ笑顔で。
行き先だけは教えてくれなかったけれど。