さよなら、いつか。②―幕末新選組伝―
幼馴染
翼 side
半紙に筆を走らせる。
最も、かな文字なんて書くことは出来ないから、年号毎に出来事をまとめるため、雑に文字を並べているだけだけれど。
「1964年、6月5日…池田屋事件、か。」
ポツリ、呟く。
新選組の代名詞ともいえるこの事件。
―――池田屋事件。
今日は5月19日だから、あと18日。
「もうすぐ池田屋事件が起きるのか…。」
気が重いな。
この事件の結末を俺は知っている分、6日に近づくにつれ気が滅入ってくる。
「つ~ば~さ!」
そんなことを考えていたら、背後から突然声が降ってきた。
「どうした?篠原。」
変声期を終えていないような高い声。
それが誰かは声一つで判断できる。
声の方向に振り返ると、4ヶ月前と何一つ変わらず、篠原はこちらに優しい笑顔を向けていた。
いや、何も変わらないと言ったら嘘になるけれど。
時代は幕末にある。
何も起こらないというのはおかしいから。
「翼にも、稽古に出るようにって。」
「本当か!?」
「うん。甲子太郎さんが翼に伝えるように言っていたから。」
喜ぶ俺とは対照に、篠原は複雑そうに瞳を歪ませている。