さよなら、いつか。②―幕末新選組伝―
幼馴染

翼 side





半紙に筆を走らせる。




最も、かな文字なんて書くことは出来ないから、年号毎に出来事をまとめるため、雑に文字を並べているだけだけれど。





「1964年、6月5日…池田屋事件、か。」




ポツリ、呟く。





新選組の代名詞ともいえるこの事件。




―――池田屋事件。




今日は5月19日だから、あと18日。





「もうすぐ池田屋事件が起きるのか…。」




気が重いな。




この事件の結末を俺は知っている分、6日に近づくにつれ気が滅入ってくる。





「つ~ば~さ!」





そんなことを考えていたら、背後から突然声が降ってきた。





「どうした?篠原。」




変声期を終えていないような高い声。




それが誰かは声一つで判断できる。





声の方向に振り返ると、4ヶ月前と何一つ変わらず、篠原はこちらに優しい笑顔を向けていた。





いや、何も変わらないと言ったら嘘になるけれど。




時代は幕末にある。




何も起こらないというのはおかしいから。






「翼にも、稽古に出るようにって。」





「本当か!?」





「うん。甲子太郎さんが翼に伝えるように言っていたから。」




喜ぶ俺とは対照に、篠原は複雑そうに瞳を歪ませている。 





< 28 / 186 >

この作品をシェア

pagetop