ゾンビのヒットマン
『やはり、殺せなかったか』


ボスがナイフで私の頬を撫でる。

先ほどまではナイフの側面を当てられていたのだろうが、今度は鋭利な面で私の顔を切りつけたようだ。

チクリと痛み、見なくとも流血しているのがわかる。


「……そのようだな。だが私を殺すのはやめていただきたい」


『いいだろう』


思わぬ形で契約が成立した。

私は心の中でガッツポーズをした。


すると、ボスは私の左頬に出来た傷跡に、ザラザラとした何かを塗り込んできた。

あるいはすり込んできた、とでも表現しようか。

おそらくは粉洗剤のようなものだ。

血で汚れた私の頬を綺麗にしようとしているのだろうか。


『その代わり、君には実験台になってもらう』


“ボス”が、今度は手の平で私の頬を撫でる。

ここまで優しくしていただけていることを考えると、粉洗剤ではなく、傷薬の可能性もある。


そのときだった。


突然、全身が痺れ始め、強烈な痛みに襲われた。

叫び声が漏れそうになるが、必死に堪える。

殺し屋は叫ばない。

それが私が持つ殺し屋のイメージだ。


「ぎゃあぁぁあ! 痛いぃぃい! 死ぬぅぅう!」


『今後、どんなことがあっても、“ターゲットの命令は聞くな”』


それが私の聞いた最後の言葉だった。

その直後、あまりの痛みに、私は意識を失った。
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