グッバイマイオールドフレンド
会場の壁一面に、くじら幕が張られている。

 加藤はそれを見て、怒りを感じたのである。
 僕も加藤のように正義感が強かったなら、同じように、怒鳴っていただろう。   
 でも、できない自分がいた。
「それについては、後で説明するよ」
 しんちゃんが、加藤の肩をポンと叩いて、なだめるように言った。
 加藤は、むっとしたままであったが、その場は、さやをおさめた。
 くじら幕が張られているせいか、同級生が集まっても、独特のがやがやとした雰囲
気はなく、むしろ静まりかえっていたように思えた。
 時間がくると、司会担当の、カズオが正面すみのマイク席に歩み寄り、マイクの調
子を確かめた。
「皆様、本日はお忙しいなか、この青日会にお足をお運びくださり、まことにありがと
うございます。せんえつながら、本日の会は、わたくし、佐藤が司会をつとめさせて
いたたせきます。どうか皆様のご指導、ご鞭撻お願いします」
 カズオが深くお辞儀をすると、出席者は、拍手でかえした。
「開会に、さきだちまして、われらが師である中沢先生より、ご挨拶を承りたく存じま
す。先生、宜しくお願いします」
 カズオが丁重に促すと、中沢がゆっくりと正面に進んだ。
「ええ、ご紹介にあずかりました、中沢です。本日は、皆様に逢えることを楽しみにし
てまいりました。わたしは、教師を退いてから、生徒というものに接することはなくなり
ました。奇しくも、皆様がわたしの最後の教師生活の生徒となったことは、これもなに
かの縁だと感じております。まあ、皆様にとりましては、どうでもいいことだとお思いに
なりましょうが、ひとつ本日は、わたしもお仲間のひとりとして、加えていただければと
存じます。なにとぞ宜しくお願いいたします」

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