グッバイマイオールドフレンド
中沢は丁寧にお辞儀をした。
 元生徒たちは、拍手でこたえた。
「こしがひくくなっちゃったね」
「そりゃ、権力もなにもなくなっちゃったん
だもの」
 隣で、こそこそと同級生がささやく声がきこえた。

 中沢ドボル

 皆、彼のことをそう呼んでいた。
 本名は、のぼるだが、顔が音楽教室の額にかけられた、ドボルザークに似ていたこ
とから、誰かがつけたあだ名である。
 本人が、その事に気づいていたかどうかはわからない。
 そんな事が彼の耳に知れたら、どうなるかは、生徒たちがよくわかっていたからだ。
 体罰。
 その言葉が正当性を持って、まかりとおっとていた時代だった。
 なにかの罪を侵せば、体で罰を受けることが、反省することへとつながる。
 そう思われていたのだろう。
 中沢も、厳しい一人で、生徒からの印象はよくなかったのが事実である。
 前でスライドショーが行われている間、はなしは、中沢のことではながさいていた。
「教師なんてわからねえな。偉いものとして、従うしかなかったように思っていたのに、
今は、なんとも思わないからな」
「そうだよな。俺なんか、親になってみて、子供の先生のことなんか、偉くみえないも
んな」
 酒が入って、はなしがはずむとも言えるがみんな、かつてのうさをおもいきり、はら
しているようだった。
 




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