海のみえる街
「名前…なんていうの?」
そう言って、一房だけ持ち上げられた私の髪からゆっくりと手を離しながら、彼は魅惑的な青い瞳を私に向けた 。
「ツ、ツキノ。 香川月野。 」
「俺は タマキ。 羽田野(ハタノ) 環。」
ああ。だからタマちゃんなのか。
私が納得した顔をしていたのに気づいたのか、
「タマちゃんとか言うなよ。猫みたいだから。」
と言って軽く睨み付けられた。
「環でいいよ。
月野。」
自分の名前が呼ばれた瞬間、なんともいえない浮遊感を感じた。
いつも名前では呼ばれず“きぃ”とあだ名で呼ばれるからかな…
環…。
口にだすのは何となく恥ずかしくて頭の中で繰り返す。
羽田野環。
「あのさ、月野。」
「俺が嵐の店に居候してること、黙っててくれないかな。」
なんで?って聞き返しそうになったけど、
「わかった。」
と私は答えた。
それを他の人から聞かれたくないから、環は私に黙っていてほしいと言った気がした。
居候している理由。
よくわからないけど、彼にも事情があるんだろうな。