海のみえる街
「俺の絵のモデル。俺、お前を描きたいんだ」
絵のモデル…わたしが…?
私を描きたいという環の目はとてもまっすぐで、誰かに似ていた。
「月野。お父さん撮りたいものができた。留守番たのんだよ」
「月野、ごめんね。たったいま曲が頭に浮かんだの!留守番できるわよね?」
そうだ。お父さんとお母さんが私を置いていくときの目…
やりたいことを見ているときの目。
お父さんは写真。お母さんは音楽。二人ともそれで頭がいっぱいのときは、いつも真っ直ぐな目をしてどこか一点を見ていた。
環の目もそれに似ている。
「私なんて描いても面白くないよ?」
「面白いよ。昨日から俺、頭の中で何度もキャンパスにお前を描いてるんだ。
昨日の夕日に照らされたお前を思い出して、描いては消して描いては消して…
でも頭の中で描いたお前はすぐに薄れていく。ちゃんと残したいんだ。描かないと俺、抑えられない。」