シンデレラの王子は。

「そろそろ帰ろっか。目腫れてるけど」
ニカって笑う。
重いと思ったらやっぱり腫れてたんだ。全部先生のせいだよ。アタシのこと遊び相手とか、疲れたとか、飽きたとか言って突き放すから。また思い出しちゃったよ。
「悪いこと思い出させちゃったか。まっ、そんな暗い顔すんなよ」
「アタシ、暗い顔なんてしてました?!」
「うん。超ブサイク」
彼はアタシの頬を軽くつねった。「傷つきます」
口を尖らせてゔーってやったら、 頭を掻きながら
「ごめん、嘘だよ」
またニカってする。
ほら、行くよって腕を引かれるの。夜は暗くて見えなかった大きな背中が朝日に照らされて、妙にドキドキしたの。何を話すわけでもないのにね。笑っちゃうよ。

あの日あの時、あの瞬間。
君に見つけてもらえてよかった。
君に拐われてよかった。
君がアタシに魔法をかけて、先生のこと考えないように、虜にさせた。
君の大きな手のひらに引かれて、アタシはあの夜シンデレラになったの。
本当に本当にありがとう。
琉葵さん。

< 21 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop