シンデレラの王子は。
「俺のこと忘れてくんない?……その、結婚するんだ。そいつとは、結構長い付き合いでさ。」
長い付き合い?
「どれくらい」
「神谷に逢うよりも前から」
じゃあ、
「本当悪かったと思ってるけど…神谷と付き合ってる時は二股してた。」
それって、どっちに悪いと思ってるの?何考えてるの、この男。
ドラマでよくあるコップの水を相手に掛けるシーンのように、顔面向かって、思いっきり水を掛けてやった。
「ばか」
さっさとバッグを持って、走って店内を出る。
無意識の内に零れる涙を左手で拭って走った。
「ばか、ばかばか、ばか、ばかばかばかーー」
走って走って走ってたら、途中で急に力が抜けて、ぺシャンとその場に座ってツーと涙を流してた。
「…ばかっ」
「……大丈夫すか?」
後ろから男の人の声。
『ダンッ、ダンッ』
今頃気づいた、ボールをつく音。その音の強さで昨日の人だって分かった。
もう一度涙を拭って、深く深呼吸してから振り向いた。
「大丈夫じゃないっすねー」
なるほど、といったかんじになんか納得してる。
「つーか、昨日のっ!!!!」
「昨日はどうも」
「どうも」