シンデレラの王子は。

「強がんなくていーの。羽海も結城先生も目で好きって言い合っちゃって☆」
「言ってないってば!!空未止めてよー。ホントに」
空未がからかうから、アタシは顔が熱くなってしまった。
「神谷、山崎、早く帰れよー」
声が聞こえる方を見ると、スーツのスラッとした、若い男の人がドアに手をかけながらいた。
「噂をすればだね。うーみーちゃん♪」
「空未っ」
アタシはとっさに空未の腕を引っ張った。
「お前ら、俺の噂してたのかー?」
「してないです!!…ほらっ、空未、帰るよ」
「うん」
アタシは早くこの空間から脱け出したくて、苦しい胸を押さえつけ、空未を急かした。
空未のあとから出ていこうとすると、ドアの所に先生がいるから、そこだけ速足で歩こうとした。先生の横を通り過ぎようとした時、目の前に先生の顔が降ってきて、さっきまでにこにこ笑ってたのが嘘みたいに、男の人の顔になって、耳元で言うの。
「今日もちょっとだけ待っててくんね?」
って。
その後には必ず頭を2回ポンポンとたたいて、いつもの顔に戻るんだ。その時だけ、すごい刹那だけ時が止まってるみたいで、この世界には、アタシと先生だけしかいないみたいな錯覚に陥る。


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