シンデレラの王子は。
鍛えられた体の中にしまわれて、微かに鼓動が聴こえる。緊張してるのはアタシだけじゃないみたい。
側にいるだけで、胸が騒いでこのまま時間が止まればいいのにと思ってしまった。苦しくて、温かくて、自然と笑みが込み上げる。
体が徐々に離れていくと、お互い照れ臭そうな顔をしていたので、笑ってしまった。
「あっ、笑った!!」
子供みたいにニカッと笑う。その顔が琉葵さんの笑顔と似てる気がしてしょうがなかった。
「アタシも辛くなったら、元気もらいに海に来ることにします」
「よかった、元気出て」
「はい」
少し間を置いてから、再び話し掛けたのはアタシの方だった。
「あの、名前聞いてませんでしたよね」
「あ、俺は一ノ瀬琉葵っつー名前だけど」
えっ?…今、『一ノ瀬琉葵』って。琉葵さん?でも、アタシのこと憶えてないのかな、それとも別人?
「どうかした?」
「いや、同姓同名の人と会ったことがあって、ちょっとびっくりしてしまいました。」
「そっか」
やっぱり、別人みたいだ。でも、ありがちな名前って訳ではないのにと引っ掛かりを感じた。
なんて話したらいいのか分からなくなる。
さっきまで、アタシの心を圧していたものを海みたいに洗い流してくれた。