…TRIANGLE…

────「よ、弟。おかえり……なんだおまえ、その顔」


 兄貴は、これから仕事らしい。管制官の制服でスーツケースを傍らに置いて、玄関に座りこんで革靴を磨いていた。


「隼斗と喧嘩した」


「へー、ほら反対の靴磨くの手伝え」


 靴磨きを持たされて、兄貴の隣に座る。

 俺の汚くてボロボロのスニーカーに通学鞄のビニールショルダーと比較すると、兄貴のブランドのスーツケースも黒光りする革靴も俺には無縁のものとしか思えない。


「兄貴って変なとこ几帳面だよな、革靴なんか毎日磨かなくたっていーじゃん。それに夜だし目立たないだろ?」


「うるせー、靴を磨いてないのが嫌なんだよ。口動かすなら手動かせ」


 はいはい、とため息ついて兄貴の靴を磨く。兄貴が自分以外の靴を磨いたことはないし、俺は兄貴以外の靴を磨いたことはない。


 だけど、その単純作業に張り詰めていた気持ちを解される。


 隼斗を殴ったことも、穂香を好きなんじゃないかと言われたことも。





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