…TRIANGLE…
「なんで喧嘩になった?」
「隼斗が穂香の付き合ってるのに、違う女と浮気した。穂香のこと振ったんだよ。穂香に振られるならわかるけど、なんで穂香が振られるんだよ。意味わかんねーし、ムカついた」
磨いた靴に満足したのか、兄貴は、よし、と頷いた。
「ナツ、チャンス到来じゃん。穂香奪ってきたのか? おまえ、可愛い顔して手がはやいな。ま、一回やれば既成事実ができるからなー殴られて当然だ」
「あのなぁ、俺は兄貴みたいに年中発情男じゃねーんだよ! それに穂香とはそんなんじゃねーよ! 勝手な解釈すんな!」
「ムキになるとこがまだまだだな。でも、いいんじゃね? おまえと穂香が好きだったんだろ? 昔から穂香、穂香言ってるし、他の女の名前なんて聞いたことない」
「だーかーら……もういい。兄貴に話すんじゃなかった」
ボロのビニールショルダーを掴む。
「あ、葵は寝取ったってダメだからな。それはいくら可愛い弟でも許せねーよ。俺は殴ったりしないで、お前の頭の上に飛行機墜落させるからな。ま、あいつは俺以外無理だから大丈夫だろうけど」
「こえーよ! 墜落って、なんだよ!」
兄貴は涼しい顔して、じゃーな弟、と玄関扉から出て行こうとする。
「なあ、兄貴は浮気で他の女抱けるの?」
「無理、勃たない」
がちゃりと閉まった扉の向こうで、兄貴がスーツケースを転がす音が遠のいていった。