…TRIANGLE…


「穂香の家だって、すぐそこじゃん」

「でも、うちはぐるっと回らないと帰れないから!」 

 住宅街の面倒なのは、道一本違うと反対側に行くのが大変なとこだ。

「それに隼斗に頼まれたんだよ。送らなかったら、アイツに何言われるか、わかんねーだろ? 傘さして後ろ乗れ」


 自転車に乗って、穂香の荷物を乱暴に取り上げた。


「はやく後ろ乗れ。濡れる」


「……うん、ありがと」


「つかまっとけよ」


 穂香の手が、俺の腰に回った。いつもは隼斗の後ろにいる穂香が、俺の後ろにいるなんて変な感じがした。

 落とさないように、ゆっくりと自転車を漕いだ。おかげで、沢山濡れたかもしれない。


「到着!」

「ナツくん、ありがとう」

「いいよ、どうした? 大人しいじゃん」

「なんでもない。ごめんね……オヤスミ」


 穂香が自転車から降りて、少し濡れた前髪をかき分けて上目遣いになる。

 心臓が止まるかと思った。


「……おやすみ」


 穂香が穂香じゃない。何かに裏切られた気分だ。

 こんな顔を隼斗はいつも独り占めしているんだ。


 俺は必死に穂香から目をそらして自転車を漕ぎだした。水たまりで水しぶきがあがった。雨は本降りになってきた。


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