…TRIANGLE…
────逃げるように早足で裏道を走る。
髪は乾いてきたけど、制服は汚れて半乾き状態。濡れたローファーは重すぎて、学校で体育の運動靴に履き替えてきた。
さすがにナツくんみたいにジャージ姿で帰る度胸はなくて、暗くなったし誰にも会わないだろうと、とにかく家に帰ることにした。
玄関で物音たてずに部屋にダッシュすればお母さんには見つからないはずだ。
この時間なら、きっと夕方のテレビ番組に夢中だろうし、智香は絶対に家にいないはず。
ナツくんの家の目の前のコンビニを横目に小走りで進む。
「あれ、穂香ちゃん?」
声の主は、ナツくんのお兄さんの彼女だった。たしか、葵さん……前に隼斗とナツくんとファミレスでお喋りしてたら二人が来て、五人でご飯食べたことがある。
会ったのは、その一回だけだけど、その後隼斗から二人が結婚することを教えてもらった。
私とは別次元の幸せな人……
「葵さん、こんばんわ。ごめんなさい、私急いでるから……」
葵さんは、旅行バッグみたいな大きなバッグを片手に近寄ってきた。
それ以上近寄らないでと後ずさる。