…TRIANGLE…


 穂香は「子供扱いしないで! 私も行くよ!」と隼斗を追いかけた。

 
 俺は、たまたま空いたベンチに座る。


「座ったら? 二人分空いてる」


「うん。ありがとう」


 ベンチに座っても無言で俯いたままの美咲と、行き交う人をただ見てるだけ。

 隼斗は、こんな時どんなふうに穂香を笑わすんだろう。


 お囃子の音に混ざってセミが煩く鳴いている。俺たちが何か会話しなくていいように鳴いてくれてるのかもしれない。



「ナツくん」

「なに?」


「って、呼んでもいい?」


「はあ? さっきから呼んでるじゃん」


「だよね……せっかくだから何か話さなきゃって思って……ごめんね」


 美咲は俯いて、また「ごめん」と謝った。



「ぷっ!」


「え? ごめん。私、変なこと言ったよね?」



「アハハ! おまえ、今日俺に何回謝った?」


「え……何回だろ? ごめん、数えてみる……えっと」


 美咲は指を折りながら、眉間にシワを寄せた。爪には綺麗なハートの模様が描かれている。






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