メイド in Trouble!!!
あたしが途方に暮れていると、バタン、と大きな音がして、部屋の扉が開いた。

大きく開いた扉の向こうには、葉流さん。

そのまま無表情で亜紀さんのいるベッドに歩み寄ると、亜紀さんに向かって低い声で言った。

「亜紀、やめろ。怖がってる」

「えー」

「手出し禁止」

「ちぇ」

よく見ないとわからないけど、ちょっと怒ってるみたい。そんな葉流さんの様子に、亜紀さんも渋々諦めたようで。

「じゃ、メイコちゃん。明日は一緒に寝ようね!」

「寝ません!」

ひらひらと手を振ると、部屋を後にした。

「おい」

「え、はい」

いきなり呼ばれて、驚いて振り返る。

「鍵かけろ、って」

「あ…」

だから、あのとき警告してくれたのか。ちゃんと警告してくれたのに、騒いで迷惑かけちゃったな。

「えっと…ごめんなさい」

「ん。わかったならいい」

無表情であたしの頭をなでる葉流さん。

表情が読めなくてよくわからないんだけど、さっきみたいに怒ってはいないみたい。これでも、心配して…くれたんだろうか。無口なだけで、とってもいい人なのかもしれない。

「…おやすみ」

そういってあたしの頭をぽんぽん、と軽く叩くと、葉流さんは部屋を出て行った。


今回は葉流さんに助けられたからよかったものの。
この家ですこしでも気をぬくと、こういうことになるのね。

あたしは改めて、自分がどれだけあり得ない環境にいるのか、再確認した。

記念すべき初バイトが、まさかこんなあり得ない環境だなんて。誰が想像するだろう。いや、誰も想像しない。

「こんなんであたし…うまくやっていけるのかな」

拭いきれない不安を胸に、あたしは念入りに自室の扉に施錠をして、ようやく眠りについたのだった。
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