メイド in Trouble!!!
「あれは、俺が7つ位のときかなぁ。親父にすげー怒られて、ふてくされて庭でいじけてたときにさ、俺より少し年下の女の子が側に寄ってきて、頭をなでてくれたんだ」
「……あ」
思い出した。
お父ちゃんの仕事の納品についてきて、このお屋敷に来たとき、大人同士の話がつまらなくって、屋敷の中を一人で探検してたんだ。
そのとき、綺麗な男の子が庭で泣きそうな顔してうずくまってたから…
「で、その女の子がいったんだ。『男のくせに泣いてんじゃねぇよ!!』って」
「うわ、あたしそんなこといいました?」
「言いました。俺の周りにそんなこという女の子なんていなかったからさ、衝撃だったよ」
幼い頃の自分のあまりの侠気っぷりに少し青ざめる。
確かに、父ちゃんも兄ちゃんも口が悪かったし、あまりお育ちのよい方ではなかったから。
「そ、その節はどうもすみません」
「いや、嬉しかったよ。子供心ながらね。それでずっと印象に残ってて、高校で君を見つけたとき、あの時のあの子だ!ってすぐわかったんだよ。それから、カヨさんが引退するのなんのって話になって、それなら君に来てもらいたい、って思ったんだ」
そうだったんだ。
意外な事実を知らされて、あたしは懐かしいようなくすぐったいような、不思議な気持ちになった。
「俺はね、ずっとずっと前から、君のことが好きだったんだよ」
真剣な眼差しであたしを見つめる亜紀さん。いつもとは違う誠実な瞳に、視線をそらすことができなくなって、心臓が大きく跳ねる。
「だから、さ…」
ことん、とカップをテーブルの上に置くと、亜紀さんは背もたれに腕をまわし、あたしの方へと顔を近づけてくる。彫刻のように整った顔が、息のかかりそうなぐらい側にある。
あたしは身動きすら出来ずに、その瞳をじっと見つめた。