猫とボク。
 ぎゃあ、と悲鳴を上げるボクたちのそばで。
 タマはフカーッとやるかと思いきや。

 「に……」

 と言ったきり、動きを止めてしまった。
「え、タマ!?」
「……にぁ」
 なに? 尻尾と耳が垂れちゃってるよ?
「ふぅ」
 た、溜め息!?
 もしかして呆然自失だったりして。

 その日タマは。
 大好物の貝柱もスルメに鰹にも興味を示さず、ボクの部屋の片隅に丸まっていた。

 やっぱり、仕留めたはずの獲物が生きていて、逃げ出したことが相当ショックだったみたい。

 結構デリケートなんだね、猫って。

 「タマ、お水くらいのんだら」
「アゲハぁ……」
 膝をついたボクの太ももに、タマがひょいと前足を乗せた。
 明らかに元気のないヒゲが、しおしおと垂れているのが憐れで。
「気にしない、気にしない」
 抱き上げて抱き締めたら、しがみついてボクの首筋に顔を埋めて小さく鳴いた。
 人間の幼児みたいで、ちょっと笑えた。
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